アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

ドナネマブの承認判断をFDAが延期した理由とは

今年3月のはじめに、イーライリリー社が開発中の、アルツハイマー病治療薬ドナネマブについて、米食品医薬品局(FDA)が承認可否の判断を延期し、外部の専門家からなる諮問委員会を開いて、安全性と有効性を検討する見通しだというニュースがありました。この…

運動で増える生理的因子イリシンにはアミロイドβの分解促進作用がある

運動が、認知症の予防に重要なことはよく知られているのですが、そのメカニズムはまだ十分解明されていません。最近、運動によって生体内で増える因子イリシンが、アミロイドβを減らす作用を持つということが報告されていたのですが、イリシンの作用機構は不…

認知機能テストMoCAの得点はMCI(軽度認知障害)と認知症でどう違う?

認知機能テストでもっともよく使われているのがMMSEというもので、短時間でできるので、便利です。しかし、天井効果というものがあり、軽度認知障害(MCI)の人は、かなり高得点をとるので、MCIの診断には不向きです。 そこで、MoCAというテストが考案されて…

アデュカヌマブの撤退について思うこと

2月1日に、バイオジェン社がアルツハイマー病の新薬アデュカヌマブの研究と販売を取りやめたということが日本でも報道されました。それで、第4相の臨床試験も途中で中止されることになり、今後アデュカヌマブが臨床で使われることはなくなったといえそうで…

認知症の告知の難しさについて

新患の患者さんが認知症と診断された時に、ご本人へどう説明するかということはいろいろ複雑な問題をはらんでいます。 この時にご本人にどういう説明をするのがよいのかについて、まだ専門家の間でも結論が出ていないように感じます。 あまりはっきりと告知…

習字は軽度認知障害に対して良い効果をもたらす

軽度認知障害(MCI)の高齢者に対して、習字が有効かもしれないということが言われているのですが、そのことを実際に調べる研究が台湾で行われて、論文として報告されています。 それによると、MCIと診断された30人を対象として、週2回 1回1時間 漢字の習字…

地中海式食事法による認知症リスク低下について

食事、栄養は認知症予防にとってはとても重要なことはいうまでもありません。 私は日ごろ患者さんに 野菜をいろいろな種類、多くとること をお勧めしています。 野菜をとれば、食物線維や各種のビタミン、カロテノイドなどをとることができます。 さらに、野…

レカネマブの皮下注射についての新情報

日本でも9月に承認された早期アルツハイマー病の新薬レカネマブに関しては、点滴による注射が月2回必要になるということで、患者さんは病院にたびたび来て、点滴を受けなければなりません。また医療機関もいろいろな準備をしないといけないということになり…

多様な知的活動をすると認知症予防効果が高い

読書などの知的活動は認知症予防に役立つということはよく知られています。座って行ういろいろな知的活動について、認知症予防効果を調べた研究があるので、紹介してみます。これは国立長寿医療センターで行われたものです。 5300人の認知症ではない高齢者に…

認知症・軽度認知障害で嗅覚異常が起こる理由とは

認知症では、嗅覚が鈍くなることがよく知られています。また、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)でも、認知症ほど強くないが嗅覚に問題が起こることがかなりあるということです。 その理由はまだ十分わかっていません。一つの説としては、海馬及びその周…

ドナネマブは第2のアルツハイマー病新薬となるか

アルツハイマー病の新薬として、レカネマブが日本でも承認されることになりました。それに続いて、期待されているのがドナネマブです。以前に、このブログで少し説明したことがありますが(N末修飾アミロイドβに対する抗体ドナネマブによるアルツハイマー病…

キノコを多くとると認知症になりにくい

キノコには特徴的な栄養素が含まれていて、私も興味をもって調べてみています。キノコを食べることががんの予防に有効ということを、先日姉妹ブログの方に、書きましたキノコを食べればがん予防になる - 認知症予防の散歩道 (hatenadiary.com)。では、認知症…

新型コロナウイルスと味蕾の関係

新型コロナウイルス感染の特徴的症状に味覚、嗅覚の異常があります。味覚異常は10~20%の頻度で起こるらしいのですが、そのメカニズムはまだ十分解明されていないようです。 私はこの点に興味を持って調べてみたのですが、結局まだ推測の域を出ていないという…

新型コロナ後遺症に認知症薬が有効かもしれない

最近、新型コロナ後遺症のマウスモデルを作製したという興味深い研究が報告されて、毎日新聞でも報道されていました。これは、慈恵医大のウイルス学講座で行われたもので、概要は慈恵医大のホームページに載っています。 この研究では、新型コロナウイルスの…

スーパーフードとして知られるビーツについて

ビーツは日本でも最近人気がでてきている野菜です。スーパーフードと呼ばれることもあるそうで、とても魅力的な食材で、私も注目しています。 ではビーツにはどんな栄養素が含まれているのでしょうか。 まず食物線維とミネラル(カリウムなど)が豊富です。…

きのこに含まれる活性物質エルゴチオネイン

きのこに含まれる活性物質として、最近注目されているのがエルゴチオネインです。この物質は、ペプチドの一種で分子量は229という小分子です。エルゴチオネインは強い抗酸化作用があり、いろいろな病気との関連性が示唆されているようです。 エルゴチオネイ…

コーヒーと記憶の関係

コーヒーを多く飲むことに認知症予防効果があるらしいということがいわれています。そのことについて、先日記事を書きました。コーヒーを飲む量が多い人は脳にβアミロイドが溜まりにくい - アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ (hatenablog.com)…

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の生存率には違いがある

レビー小体型認知症(DLB)は、アルツハイマー型認知症(AD)に次いで頻度が多い神経変性認知症として知られている。幻視症状や症状が変動しやすいことなどが特徴で、治療も難しい面がある。この二つの認知症の生存率に違いはあるのだろうか? この問題につ…

査読偽装の問題についての感想

福井大学の女性教授(T教授)が、自分の論文の査読について、知り合いの査読者と結託して有利な査読コメントを作成し、それを査読者に提供して、論文の査読・審査を操作していたということが明るみに出て、新聞に報道されていた。昨年の6月ころにこの問題を…

コーヒーを飲む量が多い人は脳にβアミロイドが溜まりにくい

最近、コーヒーに認知症予防効果があるらしいということがいろいろな研究からわかってきている。それに関連して、コーヒーを飲む量と脳内βアミロイド(Aβ)蓄積の関係を調べた研究があるので、要点を紹介してみたい。 一つは、韓国の研究、もう一つはオース…

新型コロナ雑感

7月に入って新型コロナの感染者数が1週間で倍増するという傾向が続いている。一種の感染爆発的な増え方である。 原因としては、BA5変異株に置き換わったことで、ワクチンの免疫効果が乏しくなったこと、夏のレジャーなどで人の動きが多くなったことがあ…

MCIからアルツハイマー型認知症への進行には脳内タウの広がりが深く関与

最近、脳内の異常タウの広がりの程度をPET検査で調べることが可能となってきている。その技術を用いて、健常者、MCI(軽度認知障害)、及びアルツハイマー型認知症患者の脳内タウの広がり方を調べて、分類化するという大規模研究が行われた。非常に興味深い…

米国ではアデュカヌマブへのアクセスが大幅に制限されることに

この4月7日に米国保健・福祉省のCMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)が、アルツハイマー病治療薬アデュカヌマブに対するメディケア給付対象を大幅に制限するという最終決定を下したということだ。この決定について、日本では大きく報道されな…

アミロイドβオリゴマー神経毒性低減効果を持つ小分子に関する英文総説

この1月はじめに、Antioxidantsというジャーナルに、私の執筆した総説が掲載されました。タイトルは、Protection against Amyloid-β Oligomer Neurotoxicity by Small Molecules with Antioxidative Properties: Potential for the Prevention of Alzheimer…

アデュカヌマブ認可における疑惑が問題に

アデュカヌマブの承認審査の過程で、FDAのスタッフとバイオジェン社の間で、正式なものでない何等かのやりとりがあったのではないかという疑いについて、アメリカ合衆国保健福祉省が調査をすることになったということだ。 アデュカヌマブの承認過程は、通常…

アデュカヌマブの迅速承認にFDA諮問委員会メンバー3名が抗議の辞任、新聞に批判記事寄稿も

6月7日に米国FDAが、アルツハイマー病の治療薬としてアデュカヌマブを迅速承認するという決定がなされ、日本でも大々的に報道がなされた。この承認の経緯はかなり複雑なものだったのだが、詳しい事情はここでは省きたい。ただ、迅速承認という制度は、通常の…

カロテノイドは認知症リスクを下げる

βカロテンやルテインなどのカロテノイド摂取がアルツハイマー型認知症の患者さんでは少ないという報告がいくつかあります。私は、食事の中でも野菜が重要だということを強調したいと思います。特に、カロテノイドは抗酸化力が高いことから、アミロイドβオリ…

停滞するワクチン接種:無策な国と自治体

新型コロナの第4波がきて今まで以上に医療が危機に瀕しているのに、ワクチン接種は全然進んでいない。東京では、ワクチン接種の予約のためのオンラインシステムはまともに運用できていないし、小規模医療機関の医療従事者は予約さえとれないという、ひどい…

アミロイドβオリゴマー神経毒性低減療法の実用化に向け、新会社を設立

認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階で、その病態進行を防ぐために、早期の治療介入が重要ということはわかってきたのだが、まだその方法として決定的なものはないのが現状です。特に、アルツハイマー病の前段階は、アルツハイマー病を背景とする…

N末修飾アミロイドβに対する抗体ドナネマブによるアルツハイマー病の治験について

早期のアルツハイマー病に対する新たな抗体療法の治験結果が最近報告された。これは、イーライリリー社が開発しているドナネマブ(donanemab)という抗体の第2相試験についてで、その作用機序は独特なもので、これまでに報告されているものに比べて、アミロイ…