運動が、認知症の予防に重要なことはよく知られているのですが、そのメカニズムはまだ十分解明されていません。最近、運動によって生体内で増える因子イリシンが、アミロイドβを減らす作用を持つということが報告されていたのですが、イリシンの作用機構は不明のままでした。
この問題について、昨年ハーバード大学の研究グループが興味深い報告をNeuronという一流雑誌に発表しています。それによると、イリシンは、アストロサイトというグリア細胞に作用して、アストロサイトからネプリライシンというアミロイドβの分解酵素の分泌を促進します。アミロイドβは、主に神経細胞により産生され、細胞外に存在しているものですが、ネプリライシンが増えることにより、アミロイドβの分解が増えて、アミロイドβの量が減少するということが明らかにされました。そして、イリシンはアストロサイトの膜にあるインテグリンαV/β5 という受容体を介して作用しているらしいということもわかりました。
この研究は、イリシンが脳内においてアミロイドβの分解促進を起こすということを強く示唆しています。
運動によって、イリシンを増やせば、アミロイドβが脳内に溜まることを防ぐことができるかもしれず、認知症予防における運動の重要性を再認識させる研究成果といえそうです。
参考文献: Lourencoら Trends in Endocrinology & Metabolism 2024