アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

運動にはアルツハイマー病のタウの広がりを抑える効果がある

運動には認知症のリスクを低減する効果があり、一日の歩数が運動量の目安になるということが知られています。

しかし、運動とアルツハイマー病の脳に起こる病理学的な変化との関連性ははっきりしていませんでした。この問題について、米国でかなり大規模な研究が行われて、その結果が超一流誌であるNature Medicineに昨年末に発表されました。その概要について、まとめてみます。

この研究では、合計296人、平均72.3才の認知的に正常な参加者の経過を平均9.2年追跡しています。そして、その間に、アミロイドβ(Aβ)PET、またはタウPETを3回実施しています。ベースラインにおいて、Aβ PET陽性の割合は30%でした。

運動量は少ない順に低(3000-5000歩/日)、中(5000-7500歩/日)、高(7500歩以上/日)の3群に分けて経過を見ました。

Aβの蓄積量の経過と運動量には相関が認められませんでした。しかし、Aβ蓄積量の多い群で、運動量の多い群、少ない群を比べると、運動量が少ないほど認知機能の低下が大きくなっていました。

また、Aβ蓄積量の多い群では、タウの蓄積が、運動量が少ないほど、速く進むということが分かりました。

従って、運動量が多いほどAβに関連したタウの蓄積と認知機能低下の進行が遅くなることが示唆されます。

以上から、中等度以上の運動(5千歩<)により、早期のアルツハイマー病の予防効果をもたらしうると結論されました。

この結果は、運動が早期アルツハイマー病の進行予防に役立ちうることを示唆しています。アルツハイマー病を背景とするMCI(軽度認知障害)の段階において、運動は治療的な意義を持つといえます。

参考文献: Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer's disease. Nature Medicine Vol 31, 4075-4083, 2025.

 

1日7千歩以上歩くと健康リスクがはっきり低下する

 一日に何歩くらい歩けば認知症予防によいのかということは、これまでも研究がなされてきています。以前、姉妹ブログに、一日約1万歩の時にリスクが最小になるという研究について、紹介しました。https://yobounoizumi.hatenadiary.com/entry/34

 さて、2025年7月に、オーストラリアの研究グループが、一日の歩数と健康リスクとの関係について、メタ解析の論文を発表していて、その内容がとても示唆に富むものなので、少しまとめて紹介したいと思います。

 この論文では、2014年から10年間に発表された、一日の歩数と健康リスクの関連性に関する31の論文をメタ解析しています。

 その結果、歩数と健康リスクの間の興味深い関係性が見出されました。すなわち、全ての原因による死亡、心臓血管病の発症、心臓血管病による死亡、がんの発症、がんによる死亡、2型糖尿病の発症、認知症、うつ症状、転倒などの頻度と一日の歩数の間には、逆の相関関係があり、7千歩に至るまでは、そのリスクが2千歩の場合と比べて、明らかに低下していくということがわかりました。7千歩と1万歩を比べると、さらに一定の、あるいはわずかなリスク低下があるということですが、その差はそれほど大きなものではないということです。

したがって、一日7千歩は、いろいろな健康状態の改善と関連していることから、これまでに言われていた一日1万歩よりも、より現実的な目標になるということがいえそうです。

下記を参考にしました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40713949/

https://mainichi.jp/articles/20250724/k00/00m/040/214000c

いわゆる一流雑誌のインパクトファクター急落とその原因について

私は、数年前に研究の第一線からは退いたのですが、その後も英文の総説を書いたりはしてきました。

最近、研究関係で感じるのは、私の現役の頃に一流とされていた雑誌のインパクトファクター(IF)がどんどん低下していて、凋落が激しいことです。

たとえば、Journal of NeuroscienceやJournal of Biological ChemistryJBC) といえば、その分野では伝統、権威のあるジャーナルとして一目おかれていました。しかし、今ではIFがそれぞれ4.0、3.9まで落ちてきています。FASEB Journal も、親しみを感じる一流誌でしたが、IFは4.2になりました。他の有名雑誌でもIFが下がっているものが多いです。

これらの有名雑誌のIFがなぜこれほど下がったのか、その主な理由として、2つがあると思います。

一つは、Nature、Sciecne、Cellといった超一流誌の姉妹誌が増えてきたことがあります。これらの雑誌に投稿された論文が、却下された場合、その姉妹誌への再投稿を薦められ、姉妹誌に出版されることが増えたため、上に述べたような雑誌への投稿が減少しているのだろうと思います。姉妹誌として、有名なものには、Nature Communications、Cell Reportsがあります。

二つ目には、新興雑誌の台頭があります。例えば、Frontiers シリーズとかMDPI社の雑誌があげられます。これらの新興雑誌は、Article Processing Charge (APC)という論文掲載料の支払いにより、論文がオープンアクセスとして出版されるため、誰でも論文をダウンロードして読めるというメリットがあります。また、査読の厳しさがあまりないのも特長で、論文を速く出版したい研究者には、適していそうです。ただし、現在では、APCは55-60万円程度かかるので、研究費が十分ないと難しいでしょう。

上の他に、オープンアクセス雑誌としてはBMC、PLoSが発行しているものもあります(BMCは現在Springer Natureに属しています)。これらの雑誌の査読は、標準的、良質なものです。そして、APCは雑誌にもよりますが、40-50万円程度です。(PloS Oneが一番安く35万円程度)

このような理由を含めて、雑誌数の全体的な増加もあり、一流雑誌と言われていた雑誌のIFが軒並み下がっていて、少し違和感を覚えているこの頃です。

最近の研究者は、Journal of NeuroscienceやJBC に論文が通っても、あまり喜べないのかもしれません。

 

レカネマブによる症候性ARIAの頻度は、軽度認知症よりもMCIで少ない

アルツハイマー病の新治療薬レカネマブの副作用として、脳内の浮腫ARIA-Eや出血ARIA-Hが起こるため、治療中には注意が必要です。

このARIA(アミロイド関連画像異常)の起こる頻度は、全体の2~3割程度と言われています。

レカネマブ治療の対象になるのは、アルツハイマー病による軽度認知症か、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)の患者なのですが、軽度認知症とMCIの間で、レカネマブの副作用の中でも問題となる症候性ARIAという副作用が起こる頻度に違いがあるということが最近報告されました。

この研究では、アメリカのワシントン大学病院で治療を受けた患者234名を調べています。平均治療期間6.5ヶ月と観察期間は短めでした。

注射に伴う反応は、全体の37%に認めましたが、軽いものでした。

ARIAの発生頻度は全体で22%、ARIA-E(ARIA-E単独またはARIA-H合併)は15%、ARIA-H単独は7%となっていました。また、症状が見られる症候性ARIAは6%、重篤な症状が見られたものが1%でした。

興味深いことに、CDR1の軽度認知症群では、症候性ARIAの頻度が27%(30人中の8人)で、CDR0.5のMCIかごく軽度の認知症群の1.8%(164人中の3人)に比べて、15倍も高かったということです。また、症候性ARIAが見られた患者のMMSE平均値(19)は、ARIAが見られなかった患者のもの(24)よりも有意に低かったということです。

この結果から、症候性ARIAが起こるリスクは、臨床的な認知症の重症度と強く関連していることがわかります。つまり、軽度であっても認知症の患者では、MCIの患者よりも症候性ARIAが起こりやすいので、できるだけ早期の時期でレカネマブ治療を導入する方が、副作用の観点からも望ましいといえると思います。

参考論文 JAMA Neurology 82, 655-665, 2025

 

英国の医療保険制度では、レカネマブ、ドナネマブの使用は奨励されず

最近の報道によれば、英国の国立医療技術評価機構(NICE)は、6月に、早期アルツハイマー病を対象としたエーザイの治療薬「レカネマブ」と、米イーライリリーの「ドナネマブ」について、公的な医療保険制度(National Health Service:NHS)での使用を奨励しないとする最終勧告案をまとめたということです。その主な理由としては、これらの治療薬の効果がかなり小さいものであるにもかかわらず、治療にかかる費用(薬自体、検査、注射にかかる費用)が非常に大きく、費用対効果が小さすぎることとしています。

また、NICEは、これらの薬の長期的な効果についても、疑問視しているようです。結局、英国では、レカネマブ、ドナネマブが、実際の臨床現場で、日常的に使われることはないだろうと思われます。

英国の判断というのは、日米とは一線を画すものといえ、これらの薬剤の費用対効果の問題点を、改めて提起したものといえると思います。

下記のサイトを参考にしました。

https://www.sankei.com/article/20250619-IJ5JS6BS4BKHVBJZJEEKB764ZQ/

https://pharmaphorum.com/news/dismay-little-surprise-nice-rejects-alzheimers-drugs