アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

血液リン酸化タウpTau217は国内承認されるのか

アルツハイマー病が血液で診断できるようになるかもしれません。

今は、脳内にアミロイドβが溜まっているかどうか調べる方法としてPET検査がありますが、この検査は高額で、新薬を使う前提でないと保険適用されません。しかし、血液の中のリン酸化タウpTau217という特殊なタウ蛋白の量を測定することで、脳内のアミロイド病理の有無を判定することができることが明らかになってきました。

ロシュ・ダイアグノスティックス社は、この測定系を開発していて、米国では実用化目前ということです。

ロシュ社は、日本での実用化を目指して、この検査を体外診断用医薬品として、8月6日に厚労省に承認申請を行ったそうです。

この申請が承認されれば、いよいよ日本でも血液によりアルツハイマー病の診断ができる時代が来ることになるので、これからの審査の成り行きが注目されます。

 

ゾルピデム(マイスリー)の使用による睡眠構造の変化

ゾルピデム(マイスリー)を日常的に服用している人を診察することが時々あります。

ゾルピデムはGABA-A受容体を介して作用するという点で、ベンゾジアゼピン系の薬と類似しています。ただし、ゾルピデムはGABA-A受容体のω1サブユニットに特異的に作用して、GABAの抑制作用を強めることが知られていて、副作用も少なめと言われています。

しかし、ゾルピデムには、睡眠構造への影響があることが懸念されます。最近報告された論文では、ゾルピデムとレンボレキサント(デエビゴ)の睡眠構造への影響を比較していて、違いがあることが示されています。ゾルピデムでは、睡眠構造がより鎮静に近いものに変化しますが、レンボレキサントでは正常の睡眠と比べて、非常に小さい変化しか認めなかったということです。

つまり、ゾルピデムにより睡眠が非生理的なものになってしまうので、常用することは避ける方がよいと思います。

 

参考:Sattariら Sleep Adv 2026.

 

運動にはアルツハイマー病のタウの広がりを抑える効果がある

運動には認知症のリスクを低減する効果があり、一日の歩数が運動量の目安になるということが知られています。

しかし、運動とアルツハイマー病の脳に起こる病理学的な変化との関連性ははっきりしていませんでした。この問題について、米国でかなり大規模な研究が行われて、その結果が超一流誌であるNature Medicineに昨年末に発表されました。その概要について、まとめてみます。

この研究では、合計296人、平均72.3才の認知的に正常な参加者の経過を平均9.2年追跡しています。そして、その間に、アミロイドβ(Aβ)PET、またはタウPETを3回実施しています。ベースラインにおいて、Aβ PET陽性の割合は30%でした。

運動量は少ない順に低(3000-5000歩/日)、中(5000-7500歩/日)、高(7500歩以上/日)の3群に分けて経過を見ました。

Aβの蓄積量の経過と運動量には相関が認められませんでした。しかし、Aβ蓄積量の多い群で、運動量の多い群、少ない群を比べると、運動量が少ないほど認知機能の低下が大きくなっていました。

また、Aβ蓄積量の多い群では、タウの蓄積が、運動量が少ないほど、速く進むということが分かりました。

従って、運動量が多いほどAβに関連したタウの蓄積と認知機能低下の進行が遅くなることが示唆されます。

以上から、中等度以上の運動(5千歩<)により、早期のアルツハイマー病の予防効果をもたらしうると結論されました。

この結果は、運動が早期アルツハイマー病の進行予防に役立ちうることを示唆しています。アルツハイマー病を背景とするMCI(軽度認知障害)の段階において、運動は治療的な意義を持つといえます。

参考文献: Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer's disease. Nature Medicine Vol 31, 4075-4083, 2025.

 

1日7千歩以上歩くと健康リスクがはっきり低下する

 一日に何歩くらい歩けば認知症予防によいのかということは、これまでも研究がなされてきています。以前、姉妹ブログに、一日約1万歩の時にリスクが最小になるという研究について、紹介しました。https://yobounoizumi.hatenadiary.com/entry/34

 さて、2025年7月に、オーストラリアの研究グループが、一日の歩数と健康リスクとの関係について、メタ解析の論文を発表していて、その内容がとても示唆に富むものなので、少しまとめて紹介したいと思います。

 この論文では、2014年から10年間に発表された、一日の歩数と健康リスクの関連性に関する31の論文をメタ解析しています。

 その結果、歩数と健康リスクの間の興味深い関係性が見出されました。すなわち、全ての原因による死亡、心臓血管病の発症、心臓血管病による死亡、がんの発症、がんによる死亡、2型糖尿病の発症、認知症、うつ症状、転倒などの頻度と一日の歩数の間には、逆の相関関係があり、7千歩に至るまでは、そのリスクが2千歩の場合と比べて、明らかに低下していくということがわかりました。7千歩と1万歩を比べると、さらに一定の、あるいはわずかなリスク低下があるということですが、その差はそれほど大きなものではないということです。

したがって、一日7千歩は、いろいろな健康状態の改善と関連していることから、これまでに言われていた一日1万歩よりも、より現実的な目標になるということがいえそうです。

下記を参考にしました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40713949/

https://mainichi.jp/articles/20250724/k00/00m/040/214000c

いわゆる一流雑誌のインパクトファクター急落とその原因について

私は、数年前に研究の第一線からは退いたのですが、その後も英文の総説を書いたりはしてきました。

最近、研究関係で感じるのは、私の現役の頃に一流とされていた雑誌のインパクトファクター(IF)がどんどん低下していて、凋落が激しいことです。

たとえば、Journal of NeuroscienceやJournal of Biological Chemistry(JBC) といえば、その分野では伝統、権威のあるジャーナルとして一目おかれていました。しかし、今ではIFがそれぞれ4.0、3.9まで落ちてきています。FASEB Journal も、親しみを感じる一流誌でしたが、IFは4.2になりました。他の有名雑誌でもIFが下がっているものが多いです。

これらの有名雑誌のIFがなぜこれほど下がったのか、その主な理由として、2つがあると思います。

一つは、Nature、Sciecne、Cellといった超一流誌の姉妹誌が増えてきたことがあります。これらの雑誌に投稿された論文が、却下された場合、その姉妹誌への再投稿を薦められ、姉妹誌に出版されることが増えたため、上に述べたような雑誌への投稿が減少しているのだろうと思います。姉妹誌として、有名なものには、Nature Communications、Cell Reportsがあります。

二つ目には、新興雑誌の台頭があります。例えば、Frontiers シリーズとかMDPI社の雑誌があげられます。これらの新興雑誌は、Article Processing Charge (APC)という論文掲載料の支払いにより、論文がオープンアクセスとして出版されるため、誰でも論文をダウンロードして読めるというメリットがあります。また、査読の厳しさがあまりないのも特長で、論文を速く出版したい研究者には、適していそうです。ただし、現在では、APCは55-60万円程度かかるので、研究費が十分ないと難しいでしょう。

上の他に、オープンアクセス雑誌としてはBMC、PLoSが発行しているものもあります(BMCは現在Springer Natureに属しています)。これらの雑誌の査読は、標準的、良質なものです。そして、APCは雑誌にもよりますが、40-50万円程度です。(PloS Oneが一番安く35万円程度)

このような理由を含めて、雑誌数の全体的な増加もあり、一流雑誌と言われていた雑誌のIFが軒並み下がっていて、少し違和感を覚えているこの頃です。

最近の研究者は、Journal of NeuroscienceやJBC に論文が通っても、あまり喜べないのかもしれません。