アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

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MCIからアルツハイマー型認知症への進行には脳内タウの広がりが深く関与

最近、脳内の異常タウの広がりの程度をPET検査で調べることが可能となってきている。その技術を用いて、健常者、MCI(軽度認知障害)、及びアルツハイマー認知症患者の脳内タウの広がり方を調べて、分類化するという大規模研究が行われた。非常に興味深いことに、PETによる分類と、これまでの病理学的分類がとてもよく相関することがわかったという。(Therriaultら、Nature Aging, 2022;カナダ、米国、英国による共同研究)

この研究によると、ステージIでは、嗅周囲皮質に限局、ステージIIでは、さらに嗅内皮質と海馬までに限局、ステージIII、IVでは、側頭葉皮質まで進展、ステージVではさらに連合皮質まで進展、ステージVIではさらに一次感覚野まで進展がみられていた。この進展様式は、よく知られているBraakの病理学的分類と比べ、多少の違いはあるが、非常によく対応していることが明らかとなった。

さらに、認知機能レベルとの対応では、ステージ0~IIは健常レベル、ステージIII、IVはMCIレベル、ステージV、VIは軽度から中等度認知症レベルに対応していた。すなわち、タウが側頭葉から連合皮質(側頭頭頂部)に広がることが、認知症への移行に重要な要因と考えられる。

一方、アミロイドβの蓄積について、PET検査で調べると、ステージIV以上ではプラトーに達していた。したがって、アミロイドβを標的にした治療は、ステージIIIの段階で始めるべきなのだろう。

タウの広がりのPETによるステージ分類は、アルツハイマー認知症の進行過程をよく反映していて、画期的なものといえるだろう。まだ研究段階のものではあるが、将来的には臨床の場でも使われるようになるかもしれないと思う。