アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

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アデュカヌマブの迅速承認にFDA諮問委員会メンバー3名が抗議の辞任、新聞に批判記事寄稿も

6月7日に米国FDAが、アルツハイマー病の治療薬としてアデュカヌマブを迅速承認するという決定がなされ、日本でも大々的に報道がなされた。この承認の経緯はかなり複雑なものだったのだが、詳しい事情はここでは省きたい。ただ、迅速承認という制度は、通常の承認とはその内容を大きく異にするものだということである。つまり、薬の臨床的な有効性が不明確な場合でも、対象となる疾患が深刻で、その医療ニーズが満たされていない場合、代替的な評価項目(バイオマーカーなど)の変化からその有効性が予測できる場合に、その薬を承認するシステムなのである。

アデュカヌマブの場合、第3相臨床治験の結果の解析から、臨床的な有効性の証拠は不十分とみなされた。昨年の11月の外部諮問委員会でそのような勧告がだされている。しかし、脳内アミロイドβプラークの量は相当低下していたことから、この代替的評価項目の変化から有効性が予測されるとFDAは判断したのである。また、諮問委員会では、迅速承認の経路については議論されなかったということだ。(昨年11月のブログ記事を参照ください)

だが、この迅速承認決定の直後、この決定に納得できなかったためか、FDA諮問委員会の3名のメンバーが辞任を発表したのである。その3名はJoel Perlmutter氏、David Knopman氏そして、Aaron Kesselheim氏である。米FDAのアルツハイマー病治療薬迅速承認、諮問委員3名が辞任 | 財経新聞 (zaikei.co.jp) そのうちの1名のハーバード大学医学部のAaron Kesselheim氏は、 Jerry Avorn氏と連名でなんとニューヨークタイムズ新聞に痛烈な批判記事を15日に寄稿したのである。(記事タイトル:The FDA has reached a new low. FDAは新たな低次元に達した)この記事の中で、Kesselheim氏は、今回の決定は 近年のFDAの認可の中では最悪のものであると言っている。これまでにFDAの保ってきた高い水準が損なわれてしまっていることを憤っている。そして、アミロイドβのレベルを下げることによって、認知機能低下を遅らせることができることは示されていないと述べている。諮問委員は、アデュカヌマブは、約三分の一の患者に脳浮腫を引き起こすという副作用も懸念していたという。そして、FDAはバイオジェン社に9年間臨床効果を検証するため追加の臨床試験をする猶予を与えたが、その結果が判明するまでの期間に、きわめて多くの患者が治療を受け、莫大な金額が費やされることになってしまうといっている。

この新聞記事は、FDAの今回の承認がはらむ問題点をとてもはっきりと指摘している。正直、私も同様の疑問を感じていたのだが、米国の権威とも言うべき医学者のコメントであるだけに、問題の大きさを再認識した。

今後の展開はどうなるのか、特に日本での承認がどうなるのかが注目される。

(本稿ではアデュカヌマブの迅速承認についてのFDAの発表も参考にした。FDA’s Decision to Approve New Treatment for Alzheimer’s Disease | FDA

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