アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

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ドナネマブの承認判断をFDAが延期した理由とは

今年3月のはじめに、イーライリリー社が開発中の、アルツハイマー病治療薬ドナネマブについて、米食品医薬品局(FDA)が承認可否の判断を延期し、外部の専門家からなる諮問委員会を開いて、安全性と有効性を検討する見通しだというニュースがありました。このニュースは大きくは扱われなかったため、私もその時には、気づきませんでした。

さて、今回、FDAがこのような決定をして、承認審査を慎重にすることにした理由にはどんなことがあるのでしょうか。

それには、大体大きく分けて3つの理由があるようです。

一つ目は、ドナネマブの安全性についてで、FDAは、ドナネマブがARIA-Eという脳浮腫やARIA-Hという脳出血の副作用を起こす頻度が多いことを問題視しているらしいということがあります。たとえばドナネマブはARIA-Eを24%の割合で起こし、症状のある割合は6%であるのに対し、すでに承認されているレカネマブでは、ARIA-Eの割合は12.5%で、症状がある割合は約3%と半分程度となっています。

ドナネマブでは、重い副作用の発症率がレカネマブよりも高いことは、ドナネマブの大きな欠点といえます。

そして、ドナネマブの治験においては、アミロイドPETを行って、アミロイドβが十分に除去された場合には、ドナネマブ投与を中止することにしていました。しかし、この点について、投与中止後に病気の進行がどうなるのかはっきりしないという問題があるといえます。また、アミロイドPET検査を再検することが現実的に困難な場合もあるかもしれません。

さらには、ドナネマブの治験では、投与群をタウの蓄積の少ない群と多い群に分け、タウが少ない群では、薬剤の効果が高く、タウが多い群では効果が低いことを示しています。しかし、実際の臨床現場でタウを調べる検査はまだ実用化されていないという問題があります。

このように、ドナネマブがはらんでいるいくつかの問題点をFDAがどのように判断するのか、今後の展開が注目されます。