アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

N末修飾アミロイドβに対する抗体ドナネマブによるアルツハイマー病の治験について

早期のアルツハイマー病に対する新たな抗体療法の治験結果が最近報告された。これは、イーライリリー社が開発しているドナネマブ(donanemab)という抗体の第2相試験についてで、その作用機序は独特なもので、これまでに報告されているものに比べて、アミロイドプラーク除去効果が高いという特徴があり、興味深い。

この抗体は、アミロイドβのN末端の第1,2残基の切断後、第3残基のグルタミン酸が、グルタミルシクラーゼによりピログルタミル化修飾を受けた特異なアミロイドβ(N3pG Aβ)を標的としている。このN3pG Aβは、凝集性が高く、ヒト脳内のアミロイドプラークに初期から広く溜まっていることがわかっている。それで、病因論的に重要な分子種であると考えられているものだ。

この治験では、272人の患者を2群にわけ、プラセボと実薬を月に1回、76週間投与して、その効果が検討された。その結果、主要評価項目であるiADRSという、認知機能と日常生活機能の複合評価尺度において、32%の抑制を示したという。興味深いことに、この抗体を投与された群で、PET検査におけるアミロイドプラークのレベルが、健常に近いレベルまで減少していた。すなわち、急速な脳内アミロイドβの除去により、臨床的な改善が起きた可能性が考えられている。
副作用としては、アミロイド関連画像異常ARIAがあり、27%にそのような所見がみられて、6%に症状があったという。

イーライリリー社によれば、より規模の大きい第3相試験が現在進行中とのことである。

はたしてこの抗体療法は、アルツハイマー病の根本療法として、有効性が認められることになるのだろうか。私の印象では、アデュカヌマブよりは、インパクトが強いものであり、期待が持てそうな気もするのだが、やはり大規模な第3相試験の結果を待つ必要があるのだろう。

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