アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

ヒト脳内におけるシナプス密度の減少とタウ蓄積の関連性

以前(今年2月11日)のブログで、脳内のシナプスを可視化できるPETのトレーサーについて、簡単な記事を書いたことがある。最近、このトレーサーを使った興味深い研究が報告されていた。この研究はベルギーのVan Laere博士らによって行われたもので、Neurologyという有名な雑誌に掲載されている。10人の健常者と、10人の健忘型MCIの患者(ほとんどがアルツハイマーによるMCIと思われる)を対象として、シナプスを可視化するPETと、異常タウを可視化するPETを行って、両者の関係を調べている。前者は11C-UCB-Jで、後者は第2世代のタウのトレーサーである18F-MK-6240が使われている。第2世代のタウトレーサーは、非特異的な結合性が少なく、特異的に異常タウを認識できるということだ。その結果、特に側頭葉内側の海馬領域では、シナプスの減少と異常タウの増加がよく相関していた。また、異常タウは、側頭葉内側だけではなく、側頭葉皮質などにも広がっていた。

この研究は、まだ小規模なものなのだが、MCIの段階でもすでに異常タウの広がりと、シナプス密度の減少が関連して起きていることを示していて、とても興味深い。アミロイドβのオリゴマーによってシナプス毒性とタウ異常がともに引き起こされるということが、実験的に明らかになっているが、この病態理論にもよく合っているのではないだろうか。

この研究から、MCIのレベルですでに病態が進行しはじめていて、何らかの治療介入が望まれるということも示唆されていると思う。

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