アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

タウ抗体療法の新情報

 アルツハイマー病の脳に異常なタウたんぱく質が溜まることはよく知られている。特に最近、そのような異常なタウが、神経細胞間を伝播して、広がることが分かってきた。そのため、タウに対する抗体療法が開発され、臨床治験が行われている。このような治験としては4種のもの(3種が受動免疫、1種が能動免疫)が行われているということだ。最近、Genetech社が初期アルツハイマー病に対するフェーズ2試験の結果を報告した。この抗体は、Semorinemab (RO71015705)という名前の、タウのN末を認識するものである。この治験は、患者総数457人で、アメリカとヨーロッパで行われた。73週間の投与期間の後、薬剤投与群とプラセボ群を比較し、認知機能の評価項目で、エンドポイントを達成できなかったという。ただ、安全性には問題がなかったそうだ。また、タウPETを含めたデータ解析は進行中とのことである。結局、このタウ抗体は、期待外れに終わってしまったことになる。一つの治験結果だけではあるが、この種の治療法に期待がもてるのかについては、疑問符がついたといえる。

タウ抗体が異常タウだけに結合するとは限らず、正常なタウに結合してしまうと、抗体療法の目的が果たせないのではないかということが懸念される。脳内で、タウ抗体が想定どおりの働きをするのかどうかが問題だと私は思う。

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