アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

地中海式食事法による認知症リスク低下について

食事、栄養は認知症予防にとってはとても重要なことはいうまでもありません。

私は日ごろ患者さんに 野菜をいろいろな種類、多くとること をお勧めしています。

野菜をとれば、食物線維や各種のビタミン、カロテノイドなどをとることができます。

さらに、野菜、雑穀類、豆類、乳製品、オリーブオイル、ハーブ、果物、魚類などを主体とする食事様式である地中海式食事法が認知症予防に有効という報告もかなりあります。

ここでは、地中海式食事が認知症の発症を防ぐことができることを示した最近の研究を紹介してみます。

この研究は、イギリスを中心に行われたもので、昨年BMC Medicine という有名医学雑誌に発表されました。

この研究では約6万人(年齢40-69歳)を平均9年間追跡しています。その中で、認知症になった人が 約880人(1.5%)いたということです。そして、地中海式食事を厳守していた群と、地中海式食事をあまり守っていなかった群、その中間の群に分けて、認知症発症リスクを比較しました。その結果、厳守していた群では認知症発病の割合が1.2%で、守っていなかった群の発病割合1.7%に比べて、はっきりと有意に低下していたということです。

そして、その予防効果は遺伝的なリスク(ApoEの遺伝子型)とは無関係でした。

このことから、地中海式食事法をきっちりと守ることで認知症になるリスクを減らすことができるということがいえます。

和食もかなりバランスはよいのですが、地中海式食事も取り入れて献立を考えるようにするとよいと思います。

 参考文献: Shannon ら, BMC Medicine 2023

 

 

 

 

レカネマブの皮下注射についての新情報

日本でも9月に承認された早期アルツハイマー病の新薬レカネマブに関しては、点滴による注射が月2回必要になるということで、患者さんは病院にたびたび来て、点滴を受けなければなりません。また医療機関もいろいろな準備をしないといけないということになります。そのような問題を解決するために、レカネマブの皮下注射法が検討されているということです。皮下注射であれば、自宅でできるので、病院に来る手間を省くことができ、病院側の負担も減るというわけです。

このレカネマブの皮下注射に関するデータが国際会議で報告されたということが、アルツフォーラムというサイトに掲載されていました。それによると、非盲検の延長試験の中で、一部の患者は週1回レカネマブの皮下注射を受けて、半年後に中間的な評価が行われました。皮下投与を受けた人では、点滴を受けた人よりも、レカネマブの血中濃度が11%高く、アミロイドβの除去も14%多かったとのことです。アミロイド関連画像異常(ARIA)という副作用については、皮下注射の方が、点滴注射よりやや頻度が多くなっていました。また、皮下投与では、点滴投与よりもレカネマブの血中濃度の変動が少なく、安定していました。

エーザイ社はこの皮下注射製剤の認可申請を米国FDAに来年3月に行う方針ということで、今後は点滴注射から皮下注射へという流れになっていくことも想定されると思います。

 

 

多様な知的活動をすると認知症予防効果が高い

読書などの知的活動は認知症予防に役立つということはよく知られています。座って行ういろいろな知的活動について、認知症予防効果を調べた研究があるので、紹介してみます。これは国立長寿医療センターで行われたものです。

 5300人の認知症ではない高齢者について横断的な研究が行われました。座って行う知的活動としては6種類のものを調べています。それらは、コンピューターを使う、クロスワードパズルを解く、読書する、日記や手紙を書く、家計簿をつける、ボードゲームをする、です。ここでボードゲームには、将棋、囲碁、チェス、オセロ、麻雀などが含まれます。その結果、これらのうち一つでも週に1回以上やっている人は、そうでない人に比べて認知機能障害が起こるリスクが有意に低下していました。そして、知的活動を複数行う人では、その種類の多さとリスク低下の程度が相関していました。

つまり、多様な知的活動を行うことで、認知症予防効果が高まるということがいえます。

この研究は、非常に大規模なものなので、信頼性も高そうです。私が日常診療で感じていることがデータで示されているという感じがしました。

 Kuritaら、Geriatr Gerontol Int 2019を参考にしました。

 

 

認知症・軽度認知障害で嗅覚異常が起こる理由とは

認知症では、嗅覚が鈍くなることがよく知られています。また、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)でも、認知症ほど強くないが嗅覚に問題が起こることがかなりあるということです。

その理由はまだ十分わかっていません。一つの説としては、海馬及びその周辺が嗅覚の伝達経路として重要だからということがあります。つまり、嗅覚神経は、嗅内皮質に投射して、海馬に連絡していることが知られています。一方、MCIの段階ですでに、嗅内皮質から海馬にタウが蓄積していることがわかっています。嗅覚異常がMCIの患者でも高頻度に認められるのは、そのような病理学的な変化を反映しているものと考えるのは、もっともな説なのではないでしょうか。

実際、臭いの同定の異常と嗅内皮質及び海馬における神経原線維変化の密度の間に相関があるという報告があり、上に述べた説の確からしさが示唆されます。

下記を参考にしました。

Wilsonら J Neurol Neurosurg Psychiatry 2007

 

 

ドナネマブは第2のアルツハイマー病新薬となるか

アルツハイマー病の新薬として、レカネマブが日本でも承認されることになりました。それに続いて、期待されているのがドナネマブです。以前に、このブログで少し説明したことがありますが(N末修飾アミロイドβに対する抗体ドナネマブによるアルツハイマー病の治験について - アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ (hatenablog.com))、ドナネマブはピログルタミル化された特殊なアミロイドβに対するイーライリリー社の抗体製剤で、その第二相試験でかなり有望な結果となり、最近第三相試験の結果、レカネマブと同じか、やや上回る結果が出て、アメリFDAで審査中となっています。この通常審査の結果は年末までには出る見込みで、おそらく本承認されることになりそうです。 

この治験では約1700人の患者の半数ずつドナネマブとプラセボで月一回、1年半治療が行われています。特筆すべきこととして、ドナネマブ投与群の8割で、一年半後アミロイド斑がみえなくなっていたとのことです。

この薬は進行抑制効果はかなり高く、35%くらいとのことで、病気の時期が非常に早期であればあるほど効果があるということです。投薬頻度は月一回でレカネマブより、少ない利点がありますが、脳の浮腫みの所見は、3分の1程度に現れるので、注意する必要があります。

アメリカで先行して承認されれば、その後に日本でも認可されることになるでしょうから、選択肢が増えて、良い事ではあります。でも、病院の側はやるべき事が今より格段に増えるので、対応に苦慮することになりそうです。

下記のサイトを参考にしました。

https://www.cnbc.com/2023/07/17/alzheimers-eli-lilly-expects-fda-decision-on-donanemab-by-year-end.html