アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

キノコを多くとると認知症になりにくい

キノコには特徴的な栄養素が含まれていて、私も興味をもって調べてみています。キノコを食べることががんの予防に有効ということを、先日姉妹ブログの方に、書きましたキノコを食べればがん予防になる - 認知症予防の散歩道 (hatenadiary.com)。では、認知症の予防にも役立つのでしょうか?

そのことについて、興味深い研究結果が日本のグループから報告されているので、概要を紹介してみます。

これは東北大のグループの研究で、大崎コホート研究の一環として行われたものです。1万3千人余りの65歳以上の高齢者を、5.7年間追跡しました。そして、キノコの摂取の多い人(週3回以上)、中間の人(週1-2回)、少ない人(週1回未満)の3群に分けて解析しました。

その結果、認知症になった人の割合は、キノコの消費が少ない群では11%だったのに対し、消費が多い群では7.2%、中間群では9.0%と有意に低くなっていました。様々な交絡因子(合併疾患、飲酒、喫煙、教育歴、歩行時間、黄緑色野菜、果物、肉、魚の消費量など)を調整した場合でも、キノコの消費が多い群と、少ない群の間に有意差がありました。

すなわち、日常的にキノコを多くとると、認知症になりにくいということが結論されました。この効果は、野菜の摂取量とは関係なく認められるものなので、キノコに含まれる何らかの成分が認知症予防効果を持つ可能性があります。たとえば、先日このブログで紹介したエルゴチオネインも、その候補といえると思います。

私の調べたかぎり、このような報告は、日本からの一つしかないのですが、この研究はかなり大規模なものなので、信頼性は高そうです。

キノコは認知症、がん両方の予防の助けになるということで、できるだけ摂るようにしたいものです。

(Zhangら J Am Geriatr Soc 2017を参考にしました。)

 

 

 

新型コロナウイルスと味蕾の関係

新型コロナウイルス感染の特徴的症状に味覚、嗅覚の異常があります。味覚異常は10~20%の頻度で起こるらしいのですが、そのメカニズムはまだ十分解明されていないようです。

私はこの点に興味を持って調べてみたのですが、結局まだ推測の域を出ていないということがわかりました。

でも、重要なこととして、新型コロナウイルスは舌の味蕾に直接感染することがあげられます。その理由としてわかっていることは、味蕾にはACE2(アンギオテンシン変換酵素2)が発現していて、新型コロナウイルスがACE2に結合するということ、さらに、味蕾にはTMPRSS2(Transmembrane protease serine 2)というプロテアーゼが存在し、新型コロナウイルスの侵入を促進するということがあります。

では、味蕾にウイルスが感染した後にどうして味覚異常が起こるのでしょうか?そこのところはまだ未解明なのですが、2つの可能性があり、両方が関わっているかもしれません。一つは、新生する味蕾が少なくなって、味蕾が足りなくなるという可能性、もう一つは味蕾周辺に炎症反応がおきて、味覚神経による感知が悪くなる可能性です。

特に炎症説は後遺症で味覚異常が長引くことを説明できるような気がします。

新型コロナウイルスは味蕾とかなり密な関連があるということは明らかで、そのために味覚異常がかなりの頻度で起こってしまうのだといえそうです。

 

次のサイトを参考にしました。

〔プレスリリース〕新型コロナウイルスは、口腔から感染する | 学校法人神奈川歯科大学 | KDU

 

 

 

新型コロナ後遺症に認知症薬が有効かもしれない

最近、新型コロナ後遺症のマウスモデルを作製したという興味深い研究が報告されて、毎日新聞でも報道されていました。これは、慈恵医大のウイルス学講座で行われたもので、概要は慈恵医大のホームページに載っています。

この研究では、新型コロナウイルスのスパイクタンパクを発現するアデノウイルスベクターを、マウスの鼻腔内に投与したところ、倦怠感やうつ症状を呈したということです。そして、脳内では、嗅球細胞の細胞死が増加したり、炎症反応(IL-6産生)が亢進したりしていました。さらに、興味深いことに、脳内アセチルコリン産生細胞の減少もみられたので、アセチルコリンを増加させる作用を持つ認知症薬ドネペジルを1週間与えたところ、倦怠感やうつ症状の改善がみられたそうです。

このことから、新型コロナの後遺症の治療に、ドネペジルが有効かもしれないという仮説のもと、臨床治験がはじまっているということです。

この仮説はなかなか魅力的なものではないかと思いました。新型コロナの後遺症で苦しんでいる人はかなり多いと言われていますので、治験で有効性が確認されるかどうか今後の動向が大いに注目されます。

 

次のサイトを参考にしました。

新型コロナウイルス・スパイクタンパク質の病原性を解明―新型コロナ後遺症および次世代ワクチン開発に重要知見― (jikei.ac.jp)

コロナウイルス、鼻に入り脳内で炎症 マウスで確認 慈恵医大 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

 

 

 

スーパーフードとして知られるビーツについて

ビーツは日本でも最近人気がでてきている野菜です。スーパーフードと呼ばれることもあるそうで、とても魅力的な食材で、私も注目しています。

ではビーツにはどんな栄養素が含まれているのでしょうか。

まず食物線維とミネラル(カリウムなど)が豊富です。そして、葉酸も多く含んでいるそうです。葉酸の量は100gあたり110μgで、ほうれん草の半分くらいに相当します。

さらには、ビーツの赤い色素はベタレインという強い抗酸化作用を持つ物質ですから、認知症予防にも役立ちそうです。

ビーツの料理法としてはボルシチをはじめいろいろなものが知られていますが、スープとかジュースであれば手軽にビーツを摂れると思います。

私もたまにビーツのミックスジュース(下の写真)をジューススタンドで飲むことがあるのですが、なんとなく身体によい感じがしています。

 

きのこに含まれる活性物質エルゴチオネイン

きのこに含まれる活性物質として、最近注目されているのがエルゴチオネインです。この物質は、ペプチドの一種で分子量は229という小分子です。エルゴチオネインは強い抗酸化作用があり、いろいろな病気との関連性が示唆されているようです。

エルゴチオネインは、血液中から脳の中へ特殊な輸送系(トランスポーター)によって運搬されるので、脳でも重要な役割を持っているらしいといわれており、また生体内では合成できないので食品から摂る必要があります。

興味深いことに、フレイルの患者ではエルゴチオネインの血中濃度が低下しているという報告があります。また、アミロイドβの毒性に対して保護的な働きをするというマウスの実験結果が報告されており、認知症予防に役立つ可能性もあります。

エルゴチオネインが多く含まれている食品としては、きのこのヒラタケが知られています。ヒラタケに次いで多いのは、エリンギとシイタケということです。私はヒラタケを食べたことがなかったのですが、デパ地下で見つけてたべてみました。ですが味はあまりという感じでした。エルゴチオネインを意識して無理してヒラタケを食べなくても、エリンギ、シイタケなどを食べればよいのではないかと思いました。

デパ地下で買った 霜降りヒラタケ