アルツハイマーよもやま話ー研究者・医師のブログ

認知症研究者・医師のブログです。

K先生の回診

研修医1年目の教授回診では、たいへん緊張したのを覚えている。当時は、病床数は多くなく、10人くらい同学年の同僚がいたから、受け持ち患者は一人か二人だったのだが、かなりの重症患者をみなければならないこともあった。一人の患者さんについて、調べたことをカンファレンスで発表するというデューティーもあり、皆夜遅くまで勉強していた。

回診の前には新患カンファレンスがあり、担当者が発表をする。そのあとで、回診がはじまる。研修医は、受け持ち患者の順番がまわってくると教授と1対1で応対しなければいけない。教授は一通りの説明を受けると、おもむろに患者さんに向かって、診察をはじめ、反射をとったり、神経学的な所見をとったりしながら、ここはこうだねとか、自分のとった所見について、短いコメントを述べる。皆は先生の一挙手一投足に注目しながら回診が進んでいく。この診察は、神経学に熟練した先生にしかできないものであったし、K先生の流儀というものも感じられた。先生の診察は、医学として科学的であるとともに、患者さんに対する温かいまなざしというかやさしさというかそういうものも含んでいた。回診の最後には、治療の方針について一言付け加えるというのが常だった。とにかく、K先生の回診の経験は、私の医師としての在り方にも大きな影響を与えるものであった。